第229章

「田中鳴、お願い、ククを放して。何でもするから」

 前田南の声は震えていた。まさか自分が狂人と駆け引きをしているなんて、信じがたい思いだった。

 その時、ククが突然大声で泣き叫んだ。

「ママ、怖いよ! 死にたくない!」

 子供の泣き声は田中鳴の同情心を掻き立てるどころか、彼は逆に刃先をククに向けた。

「喚くな」

 その時、一度去ったはずの望月琛が戻ってきて、背後から回り込んできた。彼はわずかに息を切らし、狂気に陥った田中鳴を緊張した面持ちで見つめている。

 前田南は望月琛の出現に気づき、その眼差しに複雑な感情がよぎったが、すぐに娘への心配に取って代わられた。彼女は焦りを滲ませた...

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